朝食を屋台で摂るなどして,総統府付近を散歩したときのことである。
顔に深いしわのある70歳前後のおじいさんが,私に近づいた。
「!T*Ai%P$Ei#?」
道に迷ったのだろうか,とても心細い顔をして,私に問い掛けているようだ。
「中国語分かりません。」
日本語で言うしか,術がなかった。
「あなた,日本人ですか?」
日本語が返ってきた。しわをいっそう深くして,おじいさんは笑顔に変わった。遠い日を述懐しているような,きらきらと濡れた瞳でこちらを見ている。また,口の動きを日本語にシフトして楽しんでいるようでもある。
「そうです。」
「台湾には観光で?」
「はい,台北にしばらくいます。」
「それはどうも」
そう言って,おじいさんは中山南路方向へ歩きだした。おじいさんの悩み解消は次の人に繰り越された。........
これでいいのだろうか,日本人であることがここちよかった。
以来,一瞬のうちに開花して芳香した素敵な笑顔は,台湾のとても大切な贈り物として忘れられなくなった。